- 2011-12-16 Fri 21:28:52
- 短編小説
ロフト×ロフト
夕方 暁子(あきこ)さんは帰ってきた
「ふぅ~ 疲れた!まあったくふざけんなよあのおやじ~こんっな偽善レポートなんてどおだっていいだろぉおが何回やり直しさせんだよ頭痛ェ~」
口悪くグチグチ独り言をつぶやきながらアクセサリーを全部はずす。
さらに上だけ下着姿になってイカの塩辛をつまみながら焼酎を飲みだす
「ああっちぃ~よ やぁってらんねえええ!!ああ暇!暇だよ!何しようかナー ああそういえば『あなエメ』(『あなたの瞳はエメラルドグリーン』という漫画の略称)途中だったな、読もう。ああでも恐ェ!くっそ切なくて苦しいんだよなー!アンジェシカとレナ~ドがさぁー!もう!」
ふらつきながら のたのた暁子さんはロフトの梯子(はしご)をのぼる。
この 暁子さんが住むアパートは、ほんの三ヶ月前越してきたばかりで 大体近くの大学に通う学生が住んでいる。家賃は5万5千円。
本当はもっと安いアパートを探していたのだが、こだわりすぎて探し回るうちに運転していた姉が
「もうここでいいわよ」
と真顔で言ったので暗黙の決定となった。
しかしなんとロフト付きで、今ではすっかり気に入っている。
暁子さんは『あなエメ』の続きを8巻ほど手に抱えてロフトを降りようとした。
その時
酔っていた頭と不自由に制限された手のせいで足をすべらせ
暁子さんはまっさかさまにロフトから落ちていった
バサバサバサ~
あ… アンジェシカが泣いてる…
レナ~ドが別の女と… なに… なにしてんのレナ~ド…
その女誰よ…
泣いてるよ…
アンジェシカが泣いてるよぉ~…………
暁子さんが気が付くと、目の前に知らない男がいた。
のんびりとした様子でこっちを見ている
「ぎゃああああああああああ!!!!!!」
暁子さんは叫んだ。
「なんだてめえええ!!!!い…いつ入りやがった…!!!」
取り乱して騒ぐ暁子さんを、特に動じることもなくじっと眺めながら男は少し微笑んで言った
「僕はずっとここにいたよ」
「は…?なに…恐ェこと言ってんだよ!!ふざけんな!!出ていけえええ!!!」
叫ぶと同時に上半身下着姿だったことを思い出した暁子さんは、急いで体を隠そうとした。
体が透けた。
「あん…?」
理解を超える現象続きで思考が止まる暁子さんに、男は落ち着いた口調でこう言った
「はやく気付きなよ。ほら そこに暁子さん倒れてるじゃないか。あんた死んだんだよ。たった今」
思考は停止のまま 指を指された方向に目を向ける。
そこには確かに下着姿の暁子さんが 白眼をむいて倒れている。
「ぎいやああああああああああ!!!!!」
「おちつけぇ!!」
「おおおおおおおち…おち…おちつけるわけないでしょう!!!何!?何これ!!まさか幽体離脱!?!?
私死んじゃったわけ!!!????まじ?まじで!?
まだ『あなエメ』全部読んでしまってないのに!?』
「…さすが暁子さん。まずそれなんだね」
「うるっせえええてめええええ!!!!アンジェシカとレナ~ドはどうなんだよ!!どちくしょう!!!
大体てめえ誰だよこのくそがあ!!!」
泣き(?)叫ぶ暁子さんに冷静な男。
男は冷静に答える
「僕はゼロ。暁子さんの前に この部屋に住んでたんだ」
……(考える暁子さん)
「…ゼロって何よ… あんた…ロボット…?」
「相変わらず空想脳だね、ゼロはあだ名だよ。本名は屋島レイっていうんだ。だからゼロ。」
「………レイの方がかっこいいと思うわ」
「……そうかなぁ…」
……(少しの沈黙)
「…まぁ、まぁ!そんなことどうだっていいのよ!!それより私の前の住人ってどういうこと!?」
男は何から話そうかという感じで若干めんどくさそうに切り出した。
「んー…簡単に言えば… 僕も暁子さんと同じ。あのロフトから落ちたんだ。
僕はロフトに玉ねぎを大量に保存してたんだ。え?好きだからだよ。生でもなんでも。おいしいよね。…そしたらそれがある日くずれてきちゃって、それにすべって落ちた。」
「……」
「暁子さんよりかはましだろ」
「…え…あ…そう…かもね」
……(沈黙)
「ん~それでね、僕 地縛霊みたいな感じでここに残っちゃったんだ。なんかさすがに成仏できなくてね、
でもテレビ見れるからいいや、って。」
暁子さんは震えだした。
「なんっなのよこのアパートの大家はああああ!!!人が死んでんのに他の部屋と同じ5万5千取ってたのかよちっくしょおおおおお!!!!おまけに私まで死んじまったじゃねーか!!!なんっっなんだよこれはよおおおおおお!!!!」
「だから僕、暁子さんのことならなんでも知ってるよ」
ギ ク
暁子さんの動きが止まる
「化粧おとしたらだいぶ顔変わるよね」
「うるっさあああああい!!!そんなのこの世の中ほとんどだってーの!!!むかつくなてめえはあああ!!」
「漫画描いてるね」
「ススストップ!!!」(汗)
「うさちゃん先生」
「だああああああああ!!!!!(汗汗)だっまれだまれこのくっそガキィィィィィィ!!!!!だまれだまれだまれー!!!!!」
「あっはははは!まぁ暁子さんと一緒の年で死んだからね、一応 一個年上だったんだけど」
「ああしまったー!!!!『うさちゃん先生』処分しとけばよかったあああああ!!!いろんなネタ帳とか日記とかあああ!!しかも下着姿で死んじゃったしイカの塩辛と焼酎のまわりに『あなエメ』飛び散っててわけわかんねぇよおおおお!!!ああ私学校ではクールでナイスなロック系ガールだったのに~!!!こ…こんなの発見されたらもう生きていけなあああああいいいい!!!!!」
「大丈夫だよ」
狂い叫びの中、ゼロはやさしく言った。
「もう死んでるから」
暁子さんは勢いよく殴りかかった。 が 透けた
「くっやしいいいいいい!!!!ああ!もう!
大体てめえなんでずっとここにいたんだよ!!あたしの生活ずっと見られてたのかよ変態じゃねーかくそがぁ!!」
「それは…」
ゼロは少しためらいながら
「暁子さんが…好きだから」
ド キ ン
暁子さんが硬直するのを見ると満足したようにゼロは言った。「うそだよ」
懲りずに殴りかかる暁子さん。
「うーん。出て行ってもよかったんだけどさ… 暁子さんとテレビの趣味が合ってたし… ああ安心して、テレビ以外暁子さんの生活に興味なかったから。変態なことはしてないよ。
…やっぱあれかな… ここにいたのは…… 後悔… 未練が… この部屋にあったから…かな…」
考え込むゼロの様子に変化が見えた。
「あのたまねぎ達を…全部…料理してあげられなかった… きっと…捨てられたんだ…人が死んだ部屋から…大量のたまねぎ出てきたんだもんな… 誰も食べやしなかったよね…」
次第に小さくうずくまるゼロ。 暁子さんはなんだか胸が痛くなった
「ゼロ…」
そっとゼロの背中に手を置いた。 透けた。
「…ごめん。あんた けっこういいヤツかも」
ゼロはしばらく黙っていたが、ふ…っと少し笑った
「暁子さんも おもしろいよ」
二人は見合って 笑った
暁子さんは言った
「私もどうやら…ここから出られそうにないよ… …だって… 『あなエメ』読んでしまってないんだもの…」
「暁子さん…」
隣の部屋で 掃除機の音が鳴り出した。
しかし 二人にはもう そんな日常関係なかった。
「あんたと一緒に生きて行くよ」(死んでる)
「うん。新しい住人も来るだろうし。テレビ見れるよきっと」(ゼロ)
「新しい住人来たらいたずらしてやろう!」(暁子)
「いいね、たまねぎしか食わせないぞ!」(ゼロ)
「うさちゃん先生毎晩朗読してやるわ!」(暁子)
アハ…
アハハハハ…(キラキラ)
「そんで飽きたら仲間にしよう」
(なんちゃってね!)
end
以前書いたなつかしの短編小説。この二人はけっこう好きです
読んでくださってありがとうございましたー!
夕方 暁子(あきこ)さんは帰ってきた
「ふぅ~ 疲れた!まあったくふざけんなよあのおやじ~こんっな偽善レポートなんてどおだっていいだろぉおが何回やり直しさせんだよ頭痛ェ~」
口悪くグチグチ独り言をつぶやきながらアクセサリーを全部はずす。
さらに上だけ下着姿になってイカの塩辛をつまみながら焼酎を飲みだす
「ああっちぃ~よ やぁってらんねえええ!!ああ暇!暇だよ!何しようかナー ああそういえば『あなエメ』(『あなたの瞳はエメラルドグリーン』という漫画の略称)途中だったな、読もう。ああでも恐ェ!くっそ切なくて苦しいんだよなー!アンジェシカとレナ~ドがさぁー!もう!」
ふらつきながら のたのた暁子さんはロフトの梯子(はしご)をのぼる。
この 暁子さんが住むアパートは、ほんの三ヶ月前越してきたばかりで 大体近くの大学に通う学生が住んでいる。家賃は5万5千円。
本当はもっと安いアパートを探していたのだが、こだわりすぎて探し回るうちに運転していた姉が
「もうここでいいわよ」
と真顔で言ったので暗黙の決定となった。
しかしなんとロフト付きで、今ではすっかり気に入っている。
暁子さんは『あなエメ』の続きを8巻ほど手に抱えてロフトを降りようとした。
その時
酔っていた頭と不自由に制限された手のせいで足をすべらせ
暁子さんはまっさかさまにロフトから落ちていった
バサバサバサ~
あ… アンジェシカが泣いてる…
レナ~ドが別の女と… なに… なにしてんのレナ~ド…
その女誰よ…
泣いてるよ…
アンジェシカが泣いてるよぉ~…………
暁子さんが気が付くと、目の前に知らない男がいた。
のんびりとした様子でこっちを見ている
「ぎゃああああああああああ!!!!!!」
暁子さんは叫んだ。
「なんだてめえええ!!!!い…いつ入りやがった…!!!」
取り乱して騒ぐ暁子さんを、特に動じることもなくじっと眺めながら男は少し微笑んで言った
「僕はずっとここにいたよ」
「は…?なに…恐ェこと言ってんだよ!!ふざけんな!!出ていけえええ!!!」
叫ぶと同時に上半身下着姿だったことを思い出した暁子さんは、急いで体を隠そうとした。
体が透けた。
「あん…?」
理解を超える現象続きで思考が止まる暁子さんに、男は落ち着いた口調でこう言った
「はやく気付きなよ。ほら そこに暁子さん倒れてるじゃないか。あんた死んだんだよ。たった今」
思考は停止のまま 指を指された方向に目を向ける。
そこには確かに下着姿の暁子さんが 白眼をむいて倒れている。
「ぎいやああああああああああ!!!!!」
「おちつけぇ!!」
「おおおおおおおち…おち…おちつけるわけないでしょう!!!何!?何これ!!まさか幽体離脱!?!?
私死んじゃったわけ!!!????まじ?まじで!?
まだ『あなエメ』全部読んでしまってないのに!?』
「…さすが暁子さん。まずそれなんだね」
「うるっせえええてめええええ!!!!アンジェシカとレナ~ドはどうなんだよ!!どちくしょう!!!
大体てめえ誰だよこのくそがあ!!!」
泣き(?)叫ぶ暁子さんに冷静な男。
男は冷静に答える
「僕はゼロ。暁子さんの前に この部屋に住んでたんだ」
……(考える暁子さん)
「…ゼロって何よ… あんた…ロボット…?」
「相変わらず空想脳だね、ゼロはあだ名だよ。本名は屋島レイっていうんだ。だからゼロ。」
「………レイの方がかっこいいと思うわ」
「……そうかなぁ…」
……(少しの沈黙)
「…まぁ、まぁ!そんなことどうだっていいのよ!!それより私の前の住人ってどういうこと!?」
男は何から話そうかという感じで若干めんどくさそうに切り出した。
「んー…簡単に言えば… 僕も暁子さんと同じ。あのロフトから落ちたんだ。
僕はロフトに玉ねぎを大量に保存してたんだ。え?好きだからだよ。生でもなんでも。おいしいよね。…そしたらそれがある日くずれてきちゃって、それにすべって落ちた。」
「……」
「暁子さんよりかはましだろ」
「…え…あ…そう…かもね」
……(沈黙)
「ん~それでね、僕 地縛霊みたいな感じでここに残っちゃったんだ。なんかさすがに成仏できなくてね、
でもテレビ見れるからいいや、って。」
暁子さんは震えだした。
「なんっなのよこのアパートの大家はああああ!!!人が死んでんのに他の部屋と同じ5万5千取ってたのかよちっくしょおおおおお!!!!おまけに私まで死んじまったじゃねーか!!!なんっっなんだよこれはよおおおおおお!!!!」
「だから僕、暁子さんのことならなんでも知ってるよ」
ギ ク
暁子さんの動きが止まる
「化粧おとしたらだいぶ顔変わるよね」
「うるっさあああああい!!!そんなのこの世の中ほとんどだってーの!!!むかつくなてめえはあああ!!」
「漫画描いてるね」
「ススストップ!!!」(汗)
「うさちゃん先生」
「だああああああああ!!!!!(汗汗)だっまれだまれこのくっそガキィィィィィィ!!!!!だまれだまれだまれー!!!!!」
「あっはははは!まぁ暁子さんと一緒の年で死んだからね、一応 一個年上だったんだけど」
「ああしまったー!!!!『うさちゃん先生』処分しとけばよかったあああああ!!!いろんなネタ帳とか日記とかあああ!!しかも下着姿で死んじゃったしイカの塩辛と焼酎のまわりに『あなエメ』飛び散っててわけわかんねぇよおおおお!!!ああ私学校ではクールでナイスなロック系ガールだったのに~!!!こ…こんなの発見されたらもう生きていけなあああああいいいい!!!!!」
「大丈夫だよ」
狂い叫びの中、ゼロはやさしく言った。
「もう死んでるから」
暁子さんは勢いよく殴りかかった。 が 透けた
「くっやしいいいいいい!!!!ああ!もう!
大体てめえなんでずっとここにいたんだよ!!あたしの生活ずっと見られてたのかよ変態じゃねーかくそがぁ!!」
「それは…」
ゼロは少しためらいながら
「暁子さんが…好きだから」
ド キ ン
暁子さんが硬直するのを見ると満足したようにゼロは言った。「うそだよ」
懲りずに殴りかかる暁子さん。
「うーん。出て行ってもよかったんだけどさ… 暁子さんとテレビの趣味が合ってたし… ああ安心して、テレビ以外暁子さんの生活に興味なかったから。変態なことはしてないよ。
…やっぱあれかな… ここにいたのは…… 後悔… 未練が… この部屋にあったから…かな…」
考え込むゼロの様子に変化が見えた。
「あのたまねぎ達を…全部…料理してあげられなかった… きっと…捨てられたんだ…人が死んだ部屋から…大量のたまねぎ出てきたんだもんな… 誰も食べやしなかったよね…」
次第に小さくうずくまるゼロ。 暁子さんはなんだか胸が痛くなった
「ゼロ…」
そっとゼロの背中に手を置いた。 透けた。
「…ごめん。あんた けっこういいヤツかも」
ゼロはしばらく黙っていたが、ふ…っと少し笑った
「暁子さんも おもしろいよ」
二人は見合って 笑った
暁子さんは言った
「私もどうやら…ここから出られそうにないよ… …だって… 『あなエメ』読んでしまってないんだもの…」
「暁子さん…」
隣の部屋で 掃除機の音が鳴り出した。
しかし 二人にはもう そんな日常関係なかった。
「あんたと一緒に生きて行くよ」(死んでる)
「うん。新しい住人も来るだろうし。テレビ見れるよきっと」(ゼロ)
「新しい住人来たらいたずらしてやろう!」(暁子)
「いいね、たまねぎしか食わせないぞ!」(ゼロ)
「うさちゃん先生毎晩朗読してやるわ!」(暁子)
アハ…
アハハハハ…(キラキラ)
「そんで飽きたら仲間にしよう」
(なんちゃってね!)
end
以前書いたなつかしの短編小説。この二人はけっこう好きです
読んでくださってありがとうございましたー!
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